11月9日(木)、江南市民会館において第65回愛知県私学弁論大会が開催されました。県内の多くの私立高校から代表生徒が弁論に立ち、本校からは電気科3年の山本諄(じゅん)君が「工業立国である日本再興のカギは硬派復活にあり」という内容で堂々と発表し、総合で4位の成績を収め、中日新聞社賞と扶桑町長賞を頂きました。
(弁論全文)
「硬派復活宣言」
わが国の映画史上で、興行収入、また、観客動員人数ともに新記録
を達成した映画「君の名は」。昨年の上映以来、大きなブームを巻き
起こしましたが、皆さんはご覧になりましたか。
ある少年と少女が夢の中で入れ替わり、人々を救う奇跡の物語は、
映像の美しさとともに大きな感動を与えました。しかし、私にとっ
て、感動とともに不思議な思いが生まれていたことを告白します。
さて、私は今、工業高校に通っています。男子ばかりの作業服と
工作機械が並ぶ硬派の学校です。しかし私は、これまでの硬派をイ
メージする肉食系男子ではありません。むしろ「草食系男子」の見
本です。人の前に立ってリーダーシップをとることもなければ、筋
肉隆々でもありません。何の不満も無いかのように振舞っています
が、実際は、その場を制する力と相手に立ち向かう勇気がないだけ
なのです。私は、工業高校電気科で学び、いくつかの資格も取得し
ました。そのひとつが電気工事士です。この会場の中を明るく照ら
している電気設備は、扱う際に、火災や感電を起こしてはなりませ
ん。安全に電気工事を行うための資格です。現在は、さまざまなソ
フトウェアをその仕組みから学んで、情報処理の資格を目指してい
ます。ご承知のように、コンピュータは0と1からなる2進数が支
配する世界です。わずかなミスでもプログラムは作動しません。全
てが最先端の技術による法則と定理に支配された中で動いています。
私が先ほど、ひとつの物語を見て、ある違和感にとらわれたのは、
過去と未来が交錯したり、または、死後の世界から人が蘇るといった
現実とかけ離れた着想を歓迎する世の中の風潮でした。夢物語に老
いも若きも陶酔する社会でした。フィクションは幻想に過ぎません。
しかし、戦後、日本が得意としたモノづくり。油にまみれ、労力を
つぎ込んで、ひとつ一つ手作業で仕上げた重みとぬくもり。モノづ
くりに魂を傾けた職人の、どこまでも本物を追及してやまない実直
さを忘れてはいないでしょうか。この夏、私は職場体験で名古屋
市にある医療機関を訪れました。そこは、腎臓に重い病を抱える人
たちが通う病院でした。生まれつき、または、後天的な原因により、
幅広い年齢層の人たちが人工透析を受けていました。人工透析は、
一度体中の血液を外に出し、ダイアライザーという透析装置の中を
通して血液が浄化されます。透析患者は週に3日、四時間ずつの人
工透析によって命をつないでいました。
私はその施設で、四十代前半のMさんに話を伺う機会がありまし
た。Mさんは、腎臓に障害が起こって腎不全になり、透析を受けて
十年目とのことでした。Mさんは「透析患者のうち、十年後の生存
率は四十%に満たないこと。水分や塩分など、食事制限が厳しいこ
と。そして、この治療は一生続くこと」を教えてくれました。また、
「一番怖いことは、自分がこの先どうなっていくかを透析中の患者
さんを見て知ってしまうことだ」とも話してくれました。その話を
聞いて、私も力になりたい。医療機器の開発に携われないものか。
患者さんの苦痛を和らげたい、と思うようになったのです。
現在、日本の工業技術はかつての様な精彩を欠いています。昨年、
国内有数の電機メーカーであるシャープが台湾の鴻海(ホンハイ)
精密工業に買収されました。また、東芝も半導体子会社をこの九月末
に売却しました。今こそ、戦後、日本が培ってきた勤勉で実直な国
民性を取り戻すときではないでしょうか。今後、私は大学に進学し
て臨床工学を学びます。最先端の技術に触れて、人の役に立つエン
ジニアになる覚悟を決めました。そして、現実を見定めて、一歩一
歩努力を積み上げた技術で、世界をリードする工業人の姿を愛知県
から発信します。草食系男子の私ですが、自分の信念を貫きます。
そして、新しい時代をつくる二十一世紀の硬派を復活させることを、
ここに宣言します。